
森口 慶亮さん
【JSN茨木】を経て就職
ありのままの姿を
遠くから見ていてほしい
今回はNPO法人 滋賀県社会就労事業振興センターさんから委託を受けた研修会にて、企業担当者の方を交えての発表をおこないました。
当事者の森口さんは、働き始めて5年目。企業担当者の津川さんと【JSN】のスタッフと共に歩んできた日々を振り返ります。
アットホームな家族のような会社
-自己紹介をお願いします。
森口:初めまして、森口です。大阪府吹田市出身です。自閉スペクトラム症で、特徴としてはダブルタスクが苦手。多動・多言の傾向が強いです、今日は変に空回りせず、しゃべりまくらないようにと言われています(笑)。4年前に【JSN】の訓練を卒業し、現在の会社で働いています。
-偶然なのですが、働き始めて今日でちょうど4年です(一同拍手)。どのようなお仕事を担当されていますか?
森口:洗車と車内清掃です。趣味はゲームやアニメと音楽鑑賞、など色々あります。
-ちなみに今はグループホームで暮らしておられます。
森口:世話人さんであったり、色んな方との絡みがある生活です。新しく入所する方もいれば退所する方もいて、さまざまな出会いがありつつ今があります。楽しい時は楽しいのですが、疲れることもあります(笑)。
-では勤務先である英和オート㈱の津川さんに、お話を聞いていきたいと思います。
津川:弊社は大阪市東淀川区にあります。社長と私の二人で、8年前に創業した会社です。私は事務・経理・営業・フロント業務から雇用に至るまで、整備以外の部分をすべて担当しています。趣味はゴルフと飲みに行くことです。
-ありがとうございます。今回の企画を考えている時、最初に津川さんのお顔が思い浮かびました。では会社のことをもう少し詳しく教えて頂きましょう。
津川:一言で言えば車屋さんです。新車や中古車の販売、車検や整備をおこなっています。私たちは「アットホームな、家族のような会社でありたい」と考えています。多くの会社さんは従業員に対して、「これもあれもできるようになってほしい」と求めておられるかと思います。しかしそれだと苦手なこともしなくてはならず、働いている方の負担になってしまうことがあります。弊社ではまずはできることから担当してもらい、できなければ他の人がフォローします。

【企業担当者】津川 千陽さん(英和オート株式会社 代表取締役)
-障害者雇用の概念に通じるところがあります。
津川:お客様から車検でお車をお預かりした際、きちんと清掃してお渡しするのですが、車両清掃は簡単なようで難しく、かなりの時間を要します。そこを森口さんに担当してもらい、お客様に喜んで頂けることを目指して日々精進してもらっております。
-森口さんはどのようなことを意識してお仕事をされていますか?
森口:車検からお返しする車も、販売する中古車も、徹底的に綺麗にして心地よく乗って頂くことを心がけています。「英和オートに車を預けたら、整備もしっかりしてくれるし本当に綺麗になって戻ってくるなぁ」と心の底から思って頂けるようにと、津川さんからも常々言われています。
実習時から自分を出して働くことができた
-森口さんは高校を卒業後、職業訓練校を経てパンの製造工場に障害者雇用枠で雇用されましたが、長く働き続けることはできなかったと聞いています。
森口:本当に苦しい時期でした。会社が用意してくれた仕事と自分の適性が噛み合わず、思うようにこなすことができませんでした。ちょうどその頃、父親との問題があり、精神的に参ってしまいました。入社してから2~3ヵ月で出勤できなくなってしまい、仕事を休んでいる期間が1年以上あったんですが、その間に父親との距離を取るため、今住んでいるグループホームに転居することになりました。仕事はその後、退職しました。

-紆余曲折を経て、【JSN茨木】に入所することになりました。訓練時代を思い出して、何か印象に残っていることはありますか?
森口:就業・生活支援センターに相談し、【JSN】を紹介して頂きました。が、コロナが流行ったことが本当に大変でした。入所してから半年、通所日数も伸びて、とても体力を使う倉庫の施設外実習にも安定して行けるようになり、「さあ、これから企業実習」というところで訓練が制限されてしまいました。
所内訓練も半日になり、「ほとんどの会社さんが実習の受け入れができなくなってしまった」とスタッフさんから聞きました。
-本当に大変な時期だったことを覚えています。そんな中でも企業実習に行かれましたよね。
森口:2ヶ所行きました。実は1ヶ所目が英和オートだったんです。この時は本当に経験のためだけに行ったんですが、とてもいい会社だな、と思ったことを覚えています。質問をしてもまっすぐに答えて下さいますし、実習終了後の振返り面談では良い所も悪い所もしっかり言ってもらえました。僕のことをちゃんと見て下さっているんだな、と実感しました。自分を出して働くことができる。この会社で働けたらな、と実は思っていました。しかしその時は、次の実習先も決まっているし気持ちを切り替えないと、と考えていた気がします。
-津川さんは当時の森口さんの様子を覚えておられますか?
津川:よく覚えています。最初は緊張して返事しかしなかった(笑)。でも、仕事への向き合い方がすごくまっすぐでした。わからないことはすぐに質問してくれるし、指示に対して「わかりました!」とすぐに動く。常に元気。弊社が求めている人材だと思いました。
-たしか実習開始時には雇用の枠がなかったんですよね。しかし終盤になって、
空きが出たと記憶しています。
津川:実はその前から【JSN】さんの卒業生を1名雇用していました。業務がだんだん忙しくなってきたこと、清掃の担当者が退職したことなどが重なり、「一生懸命やってくれる方がいいな」と思い、森口さんの採用が決まりました。
「働いていていいんだ」津川さんの面談のおかげ
-森口さんの後にも1名、【JSN】の卒業生を採用されています。障害者雇用をしようと思ったきっかけを教えて下さい。
津川:私自身、家族全員が聴覚障害という中で育ってきました。それが辛かったわけでもなく普通の生活だったのですが、母親が職探しをする際、障害者ということで仕事がなかなか見つからず、すごく大変だったことをなんとなく覚えています。この会社に入った時に社長と、「障害者雇用をしたい」という話をしました。車を扱う仕事ですから、危険なことはある。しかし、その中でもできる仕事は必ずあると思いました。二人で始めた会社ですから、手伝ってほしいことも沢山ありました。社長が中小企業家同友会に入っており、そこで【JSN】さんと面識があり、紹介してもらいました。自分が子どもの頃に感じていた問題を、解決できるようにしたい。そう考えて実習の受け入れを始めました。
-森口さんは採用が決まった時のことを覚えていますか?
「英和オートさんで働けるかもしれない」と【JSN】のスタッフさんから聞いた時は、とても驚きましたが嬉しかったです。が、いざ内定が決まると不安になりました。働き始めてからも自分の特性に合わせた必要なサポートを受けられるのか。生活と仕事をしんどくならないように両立できるのか。真っ当な社会人に本当になれるのか。とても不安でした。この不安は働き始めてからもしばらく続いていました。
-今は落ち着いて仕事をされているように思います。
半年くらいかかったと思います。英和オートでは毎月、給料日に津川さんが面談をして下さいます。体調のことや仕事内容について相談できる時間があるんです。良かった点や課題点もわかりやすく熱心に教えてくださるので、その面談のおかげで「自分はここで働いていていいんだ」と思えるようになりました。
ありのままの姿を遠くから見ていてほしい
-働き始めて4年。多少の波はありましたが、【JSN】からはどのような支援を受けていましたか?
森口:働き始めてからは週に1~2回、仕事の様子を見に来てもらっていました。【JSN】のスタッフさんから声を掛けてもらえると気合が入って頑張るんですけど、変なミスも増えてしまい、空回りすることもありました。しばらくするとスタッフさんも少し離れて見守っているようになりました(笑)。
津川:声を掛けると手が止まっちゃうんですよ。それに森口さんは、張り切りすぎると空回りしてしまう面がある。なので、離れて見ていて頂くよう、私からお願いしました。基本的には、そっとしておいてほしい。ありのままの姿を遠くから見ていてほしい。ただ、すごく勝手なのですが、困っている時は助けてほしい。本人がどう感じているかを正直に教えてほしい。【JSN】さんには色々と相談をさせて頂きました。例えば森口さんが体調を崩した時に、「私たちがこんな言い方をしたせいかな?」など、不安になることがありました。相談する先がなければ、私たちもしんどかったと思います。
-津川さんが障害者雇用において、大切にしていることを教えて下さい。
津川:精神障害者の方は特性が個々に異なります。接し方に関しては、正直ものすごく悩むことがあります。しかし「障害があるからできなくても仕方ない」という接し方ではなく、できていないことに関しては面談の際に、必ず理由と共に伝えます。そしてお客様からお褒めの言葉を頂いた時も、必ず伝えます。それは障害者雇用だから、というわけではなく、すべての社員に対して同じです。

左から
JSNの支援スタッフ、英和オート(株)の津川さん、森口さんと3人で記念撮影