突撃!事務局長金塚 18周年記念対談 VS 西浦 竹彦 理事長 (西浦クリニック院長)

【JSN】では設立以来、年に数回「法人全体会議」を開催しています。リアルとオンラインで全スタッフが集まり、支援の方向性を共有。大きな目標を見据え、日々の細かな支援のすり合わせもおこないます。
18周年を迎える今年の初会議では、西浦理事長と金塚事務局長が対談。【JSN】の支援の本質について、スタッフ全員が考える機会を設けました。普段は月に一度、食事会でじっくり話をするという両氏。フランクかつ深い対話が公の場で再現されるという、貴重な時間となりました。
人とのつながりに
手を伸ばせる時を待つ
金塚:なぜ今回、西浦先生と改めてこの場で対談しようと思ったかと言うと、先生とは毎月1回、食事をしながら話す機会があります。先生の医師としての考え方やスタンスについて聞くことがあり、その話をぜひスタッフの皆さんにも聞いてもらいたいと思ったからです。皆さんが利用者さんと接する際のヒントになるのではないか、と。
西浦:僕は今日は何を話すか準備をしていないので、金塚さん主導で質問にお答えしながら進めていこうと思います。
金塚:ではさっそくですが、先生の子どもの頃の夢を教えて下さい。
西浦:僕は学校の先生になりたかったんです。両親は教師ではなかったのですが、二人とも学校に勤めていました。その姿を見てなんとなくそう感じるようになったのと、当時「3年B組金八先生」のドラマが流行っており、国語の先生に憧れるようになりました。
金塚:私はプロ野球選手になるのが夢でした。自分で言うのもなんですが、運動神経が良かったんです(笑)。今の先生の得意なこと、苦手なことは何ですか?
西浦:物事を器用にちゃちゃっとやるのが苦手です。また、集中力が続かない。手書きで書類を書いている時に、漢字の「偏と旁(つくり)」の間で中断することがあります。これ、共感できる人はいますかね(笑)。得意なのは、色んなことに興味を持つこと。好奇心はこの仕事をする上での原動力になっています。
金塚:落ち込んだりした時はどのように対処していますか?
西浦:誰かに助けてもらって、一緒に考えてもらいながら乗り越える。もしくは、誰かといるからしんどいのであれば一人になる時間を作る。人との距離を意識して対処しています。自分にとってどちらが必要なのかを考えます。ありがたいことに相談できる仕事仲間や友人に恵まれているな、と思います。
金塚:私は一人になると考えが堂々巡りになってしまいます。
西浦:僕の今の生活では一人になる時間がほとんどありません。が、趣味であるランニングの時間は瞑想のような感覚を味わえる時間です。その時に考えが整理されたりするのかなと。
金塚:たしかに、私も歩きながら考えることがあるのですが、そんな時に色んな発想が湧いてきます。
西浦:ランニングは皆で集まって「さあ一緒にスタートしよう」ってなるんですが、走っている間は一人なんですよ。またランニングとは別に、社会と距離を置いて、一人になって考える時もあります。少し話が逸れるのですが、僕らの仕事って引きこもっている患者さんを社会につないだり、孤立している方を支援者につないだりして「一人にさせない」ことを意識するじゃないですか。それは間違ってないんですけど、引きこもっている方にはその方なりの理由がある。それを理解した上で、その方のタイミングで「人とのつながりに手を伸ばせる時を待つ」という辛抱強さも必要です。医療者側のペースで「あなたは来週から【JSN】に行って下さい」と決めてしまうことは、あまり患者さんにとってプラスにはなりません。その方が「つながりたい」と思った時に、こちらの差し伸べている手が“ちゃんと生きていること”が大事なんじゃないかと思います。
2年という訓練期間で
「待つ」ことの難しさ
金塚:それでも「待つ」というしんどさってあるじゃないですか。それと、手を差し伸べるタイミングの難しさ・・・
西浦:常に診察でその方の様子を見て、「今かな」というタイミングを見つけていく。昔は統合失調症の患者さんが多く、その中には入院を経験したり「社会復帰が難しい」と感じている方も多かった。「あなたは仕事をできる可能性がありますよ」と伝えると、「実は働きたいと思っていた」と言われることがよくありました。一言かけると、これまで言えなかったニーズが沢山出てきた。今は発達障害や引きこもり状態で治療を受ける方が増えてきました。彼らは可能性を伝えたらすぐにニーズが出てくるということが少ない。家に閉じこもっていてもスマホやネットで情報を得ることはできていて、色んな方法があることを知っているんです。わかっているけど動けない・・・という時期を経てきている。そういう方に対しては可能性を伝えるだけではなく、やはり少し待ってみるなど違う付き合い方を考えていかなくてはなりません。すごく工夫がいることです。
金塚:私たちの支援は基本2年間という期限の中で、訓練をおこないます。「待ってばかりいられない」という感覚が、支援する者の中にはあると思います。
西浦:たしかにそうですが、【JSN】を経て就職したら「ゴール」というわけではありません。もしかしたら就職後に挫折して、再度の支援が必要になることがあるかもしれません。そういうプロセスを思い描いた上で、「一度、背中を押してみる」という機会は、訓練中にあってもいいと思います。
金塚:医療機関のワーカーさんと、その辺の考え方の違いで議論になったことがあります。ワーカーさんは「ダメでも仕方ないかな」という思いで私たちの元に患者さんを送り出してくれたのですが、私たちはそうではない。「【JSN】に来て下さった以上、絶対に就職まで持っていくんだ」という思いで訓練をおこないます。
西浦:引きこもっている方たちは「社会や人との付き合いが怖い」という思いと、「孤独なまま生きていきたくない」という両方の思いの中で葛藤しています。だからこそ治療を受けたり、支援を受ける場にも足を踏み入れようとする。でも怖くなって来ることができなくなったり、行ったり来たりする。その中で色んな可能性を伝えて、例え失敗してもやり直しできる方法を見つけることが【JSN】の使命でもあります。訓練で関わっている期間は限られているけれど、その方の将来を変えていくことができる期間だと思います。
熱い心と
冷静な頭脳
金塚:医療と福祉のスタンスの違いについて、先生からは正直どう見えていますか?
西浦:僕が10年以上前に【JSN】に最初の患者さんを送り出した頃は、クリニックのスタッフがびっくりしていましたよ。「【JSN】の支援者さんが、ヒドイことを言うんです。朝、起きられなくてしんどいと言っている患者さんに、『とりあえず訓練に来ましょう!』と。どう思います!?」って。だから【JSN】に送り出したんでしょ、って今は言えるんですが(笑)。少々しんどくてもその方が訓練を受けて頑張ろうとしている時には、厳しいことも言うのが【JSN】の仕事。それを「大丈夫かな・・・」と心配しながら送り出すのが医療機関の仕事。お父さんとお母さんみたいなものかなと。
金塚:なるほど。今ここにいるスタッフの中にも同じような経験をしたことのある人がいると思います。
西浦:僕はこういう衝突というか、議論をするのは悪いことだと思っていません。本人について周りが一緒に悩み、考えるのは大事なことではないかと。スタンスの違いはあっていいと思います。【JSN】って広報誌のタイトルにもあるように「熱い人」じゃないですか。熱いという言葉は医療では使わない言葉です。医療では冷静とか正確という言葉を使うことが多い。だからこそ【JSN】のような存在が必要なんです。
金塚:字だけを見ると真逆です。それを融合させるのは難しいようにも感じます。
西浦:僕も最初はそう感じていたんですが、もはやそういう時代ではない。むしろ【JSN】が医療の外の世界にあったからこそ、できたことって沢山あると思うんです。設立メンバーである田川先生や三家先生も、医療現場のことを「熱い」と表現することはありません。【JSN】だから熱いことを実現できたのだと思います。「熱い心と冷静な頭脳」が両輪としてあることで、成立している。だからこそ医療だけでも福祉だけでもできなかったことを、やり続けることができたのではないでしょうか。
アセスメントは
ジャッジメントではない
金塚:真面目な話が続きますが、先生と前に食事しながら話していた時にね、依存症の方の話になったのを覚えていますか?薬物依存だったかギャンブル依存だったかは失念しましたが、結果的に法を犯した当事者の方にどう対応するかという話だったと記憶しています。その時の先生のお話がとても印象に残っています。
西浦:覚えています。それはたしか依存症の話でもあるし、当事者の生き方や選択を、我々がどこまでジャッジメントしてよいのか?という話だったと思います。僕らはよく「アセスメントをちゃんとしましょう」と言います。その方がどんな病名で、どんなことに困っていて、どんな能力があって、今後どんなことをしたいのか。アセスメントによって見立てることは、支援のスタートとして必要なことです。しかしだんだん経験を積んでくると、アセスメント上手になりすぎて、ジャッジメントするようになるんです。「この方はIQがこれくらいだから、この程度のことはできる」とか、「この方はADHDと診断されているので、こういう仕事は苦手なはず」とか。多くの利用者さんを担当していると、ある程度パターン化しないと仕事が回らなくなる・・・という経験を経て、目の前の方を「だいたいこういうかんじだろうな」と推測する。そして7~8割はその通りになる、という。
金塚:経験を積んだからこそ、パターン化してしまう。
西浦:「そうに違いない」と、いつの間にかジャッジメントしてしまうことが増えてくるんです。この感覚が生まれてくると、本人のニーズよりも支援者自身の価値観が前に出てくるようになるんです。知らない間に。熱心な支援者や医者ほど、良かれと思ってその価値観を患者さんに伝えるようになる。例えば、ある依存症の患者さんが、お金に困って家のお金に手を付けた。さらに困って、怪しいバイトに手を出すようになった。それで法律に触れる結果となり、ある支援機関のスタッフの方から「もう支援はできません」と言われました。それを聞いた僕は、ここでやめたら支援じゃないのでは?と思いました。その時はすごく腹も立ったのですが、支援者の方の葛藤も理解できました。
金塚:どうしたのですか?
西浦:「わかりました。支援から手を引くというのであれば仕方のないことです。が、もう少しだけ考えてから決めて、なぜそうなったのかをご本人にわかるように説明してあげて下さい」と伝えました。すると1~2週間後にその支援者の方から連絡があり「自分たちの事業所の中で、この方を支援し続けるべきかどうか沢山話し合いました。結果としてこの方は悪いことをしてしまったけれど、それも回復のプロセスの一つと見て支援を続けることにしました」と言ってくれました。深く考えて結論を出してくれたことが、僕はすごく嬉しかったです。すぐに白黒がつかない問題だったと思うんです。支援を続けるか、やめるか。どちらが正しいという話ではなく、少し時間をかけて考えてみる。先ほどの「待つ」という話にも通じますが、こういうことはクリニックで診察をしているとたまにあります。患者さんから「お酒を飲んで警察沙汰になってしまいました」と聞くこともあるんですが、悪いことをしているかしていないかで、目の前の患者さんを裁くのは僕らの仕事じゃないんです。
金塚:この話をぜひスタッフの皆さんに聞いてもらいたかったんです。アセスメントという言葉とジャッジメントという言葉が出てきました。アセスメントはジャッジメントではないんです。このことを是非、覚えておいて下さい。
西浦:人にはいろんな面があっていいし、僕らに見せてる面は、もしかするとその方のほんの一面かもしれません。だから僕らも色んな面を持っていたほうがいい。僕はこの仕事しかできないし、一生懸命この仕事をやっています。だけど本当はその時間だけで終わってはいけなくて、それは皆さん一人ひとりも同じなのですが、自分のための時間をどこかで持てるような働き方を考えていってもらいたい。色んな面を持っている人たちを、色んな面を持っている我々が支援している。例えば、良くないところしか見えない利用者さんがおられたとしても、その方はもしかしたら家に帰ると家庭のことをすごく頑張っている一面があるかもしれません。もしかすると道で困っている人を見かけ時には、親身になって助けてあげる力がある方かもしれません。僕らの見えていない一面があって、そこに支援の糸口を見つけられる可能性があるかもしれない。利用者さんにも可能性を感じたいですし、僕らの人生そのものにもね、そういう可能性を感じながら日々やっていけたらいいな、と思っています。
※2025年4月より、金塚が統括施設長を退任し事務局長に就任しました。
