【突撃!所長金塚】社会福祉法人 加島友愛会 理事長 酒井 大介さん
大阪市の北西に位置する淀川区加島・三津屋地域にて、障害者・高齢者を対象とした社会福祉事業を運営する加島友愛会さん。地域に密着したきめ細やかなサービスを提供し続け、今年で34年目。障害者就労支援の分野にも早くから取り組んでおられ、そのノウハウと熱意は【JSN】の大きな刺激になっています。
昨年6月に理事長に就任された酒井さんと、所長金塚は旧知の中。顔を合わせれば就労支援について語り合い励まし合う二人の、本音トークをお届けします。
8拠点35事業を展開
地域で愛される法人
金塚:昨年6月、歴史ある法人の5代目理事長に就任されました。改めて、加島友愛会さんの法人概要を教えて下さい。
酒井:当法人は淀川区の加島・三津屋地域において、高齢者と障害者を対象として福祉サービスを展開しています。現在、8拠点35事業を手がけており、今年で設立34年目を迎えます。
金塚:地域に根差した法人として、愛されています。
酒井:この地域は大阪の中でも下町で、人情と温かみのあるエリアです。25年ほど前にJR東西線が開通したことで、特に駅前周辺には他地域から移住してくる方も増えました。一方で、本部がある界隈は高齢化が進んでおり、企業が減ってきている印象があります。静かな町と言えばポジティブに聞こえますが、活性化しなくてはいけない、という課題も抱えています。
金塚:35事業を運営しているとのことですが、どのような事業所がありますか?
酒井:高齢者部門では特別養護老人ホームやショートステイ、デイサービス、介護付き有料老人ホームを運営しています。また、地域包括支援センターにて高齢者向けの相談窓口を設けています。その他、ホームヘルプセンターもあり、一連の介護サービスは網羅しています。
金塚:高齢者向けサービスについて、何でも相談できる場ですね。
酒井:はい。障害者部門でも365日24時間サービスを提供する入所支援や、8ヶ所のグループホームを運営しています。通所サービスにおいては、生活介護の事業や就労移行支援事業所があります。
金塚:酒井さんご自身は、この法人で働き始めて何年目になりますか?
酒井:私は26年前に非常勤職員として入職しました。当時は今よりも事業所数が少なく、高齢者部門ではデイサービスセンターと、障害者部門では重度の知的障害の方が通所する「加島希望の家」のみでした。私は後者の求人を見て応募し、支援員として働き始めました。
金塚:福祉の世界に興味を持ったきっかけは?
酒井:母親が障害者の通所施設で働いていたため、自然に興味を持ちました。当法人に入職する前も地元の尼崎で3年ほど、同様の仕事をしていました。入職して2年ほど経った時に、障害のある方への就労支援という分野に出会い、魅力を感じました。
タイミングと熱意が合致し
就労支援が加速
金塚:就労支援のどういう点に魅かれましたか?
酒井:たしか2000年頃だったと思うのですが、ジョブコーチという職種を知り「こういう方法で支援をしたら、自分が関わっている障害のある方たちが社会の中で働ける」と感じました。遠い世界の話ではなく、自分も実践できるのではないか、と。
金塚:ジョブコーチがキーワードになった。
酒井:法人自体にも就労支援やジョブコーチという仕事に興味を持ってもらうため、働きかけを始めました。具体的には、ジョブコーチという職種の先駆者である小川浩さんにアプローチし、講演会を依頼しました。
金塚:すごい行動力!
酒井:もちろん面識もないので、小川さんの本を出している出版社に電話し、つないでもらいました。最初はあまり相手にしてもらえないかなと思ったのですが、直接相談するとすぐに引き受けて下さいました。当法人の職員への啓発のみならず、地域に対して「障害のある方が働ける社会を実現したい」と発信する目的もありました。
金塚:就労支援という言葉すら、まだほとんど聞かれなかった時代です。
酒井:ターニングポイントになったのは同じ頃、エル・チャレンジ(一般社団法人 大阪知的障害者雇用促進建物サービス事業協同組合)を通じて、大阪府内の公共施設を清掃訓練の場として活用する取り組みが始まったことです。ちょうどその時にある支援機関から「誰か実習からでも参加しませんか?」という話が来たのですが、就職に向けての訓練はおろか、就労を支援するという視点が職員にはなかったため、絶好の機会に乗ることができなかった。法人として「就労支援に力を入れなくてはいけないのでは・・・」という雰囲気が広がり始めました。
金塚:どのように変わっていきましたか?
酒井:それでも急に皆が協力的になったわけではなく、「必要なことだけど自分の仕事ではない」という空気がありました。大きな転機は2001年に「アンダンテ加島」という入所施設が開所したことです。大阪市内の都市部にこのような施設ができることはめずらしいんです。ほとんどは人里離れた山間部にあり、地域生活とは切り離されています。そこで同施設は、「終の棲家ではない」というコンセプトを最初に掲げました。実際、そこからグループホームに移行された方もおられます。そうなってくると、昼間の活動が大事。働ける人は一般就労を目指し、そのための支援も重要になってきます。
金塚:すべてのタイミングや歯車が噛み合い、就労支援が加速してきた。
酒井:比較的、重度の方が多く入所されていたので、職員としては就労のイメージが確立できるまでに時間がかかったかもしれません。が、徐々に実践を積み、失敗も重ねながら就労に送り出すことを実現してきました。すると次に出てくる問題は、「送り出す利用者がいない」ということ。就労支援をしたくても後押しできる利用者がおらず、行き詰ってしまいました。
金塚:どう打開していかれましたか?
酒井:ちょうどその頃に、「グランドデザイン」や「就労移行支援事業」という言葉が聞こえてきました。社会福祉基礎構造改革があり、福祉は措置から契約へ、という時代が始まりました。「グランドデザイン」が打ち出されてからは、利用者が目的別にサービスを選択できるようになりました。
金塚:就労支援がクローズアップされるようになり、2006年には障害者自立支援法が施行されました。時代の過渡期でしたよね。
酒井:戦後の福祉における、最大の改革と言われています。社会的にも障害者の就労にスポットが当たる中で、私たちも「就労を目指す当事者を集め、支援する」ことができるようになりました。
金塚:時代の流れに後押しされた。
酒井:「こうなればいいな」と思い描いていたことが、実現してきたんです。
「Link」の就労支援における
強みと課題
金塚:そして2006年、就労移行支援を手がける「Link」を開設しました。
酒井:現在はそれなりに就労支援の実績も上がり、就労後の定着支援についても手応えを感じています。利用者さんの長所・短所を把握し、配慮事項を整理する。就職時にはジョブコーチが職場の環境調整をおこない、働き続けるための支援にも力を入れる・・・そういった一連の流れを、組織として担えている点が強みです。
金塚:「Link」さんは就労支援と就労定着支援以外にも、多機能型の支援機関として、就労継続支援B型事業所(※以下:B型)と自立訓練も手がけておられます。
酒井:B型では現在、月額3万7千円の平均工賃を出しています。大阪府下でも高いほうだと思います。自立訓練も定員を超える応募があり、自信を持って運営しています。
金塚:課題はありますか?
酒井:一つは職員の人材確保です。また、運営上の課題としては、就労移行支援以外にも当事者の方の選択肢が広がっていること。今はさまざまなタイプのA型・B型がありますし、特別支援学校から直接就職する方も増えてきました。また、あまり良いことではないのですが、雇用率を満たすためだけの雇用ビジネスも見受けられます。そんな中、就労移行支援事業は「2年間の訓練で就労を目指す」という明確な設定があります。選択肢が広がったことで、「そんなに無理をさせなくても・・・」という風潮が以前よりも強まっている気がしています。
金塚:「Link」さんの利用者はほぼ知的障害の方?
酒井:8割くらいです。最近は発達障害の傾向がある方が増えてきています。
金塚:人材確保と利用者確保。この二つの課題に関して、どのような対策を考えていますか?
酒井:人材確保に関しては、「Link」だけでなく法人全体で取り組んでいます。各施設から選抜されたメンバーで「採用戦略委員会」を結成し、さまざまなプロモーション活動をおこなっています。具体的には、就職説明会に出向いたり、学生向けのカフェを開催するなどの取り組みを進めています。利用者確保については、支援学校や高校の1・2年生向けの説明会を開催し、法人の取り組みやOBの話を聞く機会を設けています。早い段階で当法人のことを知ってもらい、実習にも来ていただいています。
金塚:なるほど。
酒井:もう一つ課題を上げるとすれば、就職した後の仕事が高度化していることです。デジタル化の流れを受けて、知的障害者が得意としていた伝票整理や資料準備などの仕事がどんどん減っている。清掃業務もコロナ禍で在宅勤務が増えたことで、少なくなっているように感じます。我々が提供する訓練の内容も変えていかなくてはいけません。
金塚:そうなると支援対象者の層も変わってくるのでは?
酒井:これまでは中軽度の知的障害の方がメインだったのですが、最近は軽度化しています。障害が軽度になっているという意味ではなく、発達障害傾向の方が増えたことで、面談の時間を多く確保する必要があるなど、支援の方法が変わってきている実感があります。
就労移行支援事業所の
都市部と地方の実状
金塚:酒井さんはNPO法人全国就労移行支援事業所連絡協議会の代表も務めておられます。さまざまな地域の就労移行支援事業所を見てきた中での、実状と課題を教えて下さい。
酒井:まずは、この就労移行支援事業が福祉サービスの中で誕生して、すごく良かったと感じています。このような支援機関が地域にあるからこそ、就職を実現できた利用者さんが沢山いると思います。この事業の意義は非常に大きいと思います。課題としては、全国で就労移行支援事業所を手がける仲間たちから、「実は今年で看板を降ろすんです」という声を聞く機会が、年々増えていることです。つまり、地方では就労移行支援事業所が減少傾向にある。非常に残念です。
金塚:そうですよね・・・
酒井:今回の報酬改定では、就労移行支援事業所を開設する際、10名定員から認めてもらえるようになりました。これまでの「定員は20名以上」というルールよりは緩くなったのですが、これだけでは問題解決にはつながりません。10名定員の規模でも、利用者さんを集めるのが大変な地域はあります。「事業」として続けていくことはできなくても、就労支援をおこなう人材を配置した事業所にインセンティブを付けるなど、何らかの工夫が必要だと思います。
金塚:就労移行支援事業はできなくても、地域の中に就労移行をおこなう「機能」を維持していくべきであると。
酒井:地方でもは就労継続支援事業を手がけている事業所はたくさんあります。そこに、就労移行支援の「機能」を付加することはできないのか。地方で一般就労の実現を後押しする機能がないというのは、当事者にとって不利益です。
金塚:10名定員に緩和されたとしても、就労移行支援を「事業」として続けるのは地方では難しいですよね。
酒井:就労移行支援は「送り出して、新しい利用者さんを確保する」という、インプットとアウトプットが必要です。これが人口の少ない地方では成り立たない。簡単に言うと、B型が一般就労にもっと力を入れられるような仕組みが必要なのではないでしょうか。
金塚:現在、全国に約3千ヶ所の就労移行支援事業所があります。都市部では増え続け、地方では減り続けている。
酒井:都市部は都市部の課題があります。これだけ増えているのに、質が伴っていない。新しくオープンしても、人材が定着しなかったり、運営者も職員も変わってしまったりして、肝心の支援がうまくいっていないケースが多く見受けられます。
障害が多様化し
支援対象者が広がっている
金塚:酒井さんは数年前から国の社会保障審議会障害者部会の委員も務めておられます。
酒井:この間、障害者総合支援法の法改正が2回、報酬改定が4回おこなわれ、議論に参画してきました。
金塚:以前と比べ、どのような点が変化してきていますか?
酒井:障害が多様化し、対象者が広がってきたという実感があります。その中で国がどこまでを福祉サービスとして位置付け、対応するのか。当法人で新たな事業を考える際にも、そのことは常に意識しています。また、国と地方自治体の役割はどうあるべきか?という点についても、委員を務める中で考えさせられるようになりました。
金塚:対象者が広がってきたことについては、一長一短があると感じています。
酒井:実は「多様性」という言葉が一般的になってきたということは、本当の意味で多様性が認められていないからではないか?と思います。寛容な社会には程遠い。「働ける人」の枠組みを決めすぎて、少しでもそこから外れた人は「働けない」「障害者だ」と言う。
金塚:私も「こんなに難しい訓練プログラムをこなせる人たちが、就労移行支援を受けているのか」と驚いたことがあります。
酒井:そんな人たちでも躓くということは、枠組み自体が狭すぎるのではないか、と思うんですよね。
金塚:では反対に、委員を務める中で何か収穫はありましたか?
酒井:雇用の分野では労働政策審議会障害者雇用分科会という場で議論をするのですが、当初は私が携わっている部会とはまったく接点がありませんでした。しかし、2020年11月に雇用福祉施策連携検討会という場が生まれ、それまで別々に議論されていた「就労支援」や「障害者雇用」の問題が、同じ場で話し合えるようになりました。やはり、「雇用」と「福祉」の狭間に落ちてしまう議題は沢山あります。財源も異なる中で、合同で議論できるようになったことは、画期的なことだと思います。私も構成員の一人として参加しています。国はこの流れを維持してもらいたいです。
金塚:先ほどのお話にあった「国と地方自治体の役割」について、もう少し詳しく教えていただけますか?
酒井:とても難しい部分ではあるのですが、ローカル(地方)ルールにはメリットとデメリットがあります。「国がもっとしっかりとルールを決めてほしい」と感じる部分もある一方で、何でもかんでも国が決めてしまうのもよくない。地域の実状に合わせて、自治体に裁量を持たせて施策を展開していく部分が、もっとあってもよいのではないか。各自治体には「もっと地域独自の福祉サービスをやりたい」と考えている人たちがいると思うのですが、地方交付税の中の福祉予算がとても少ないという問題もあり、なかなか実現できていないのが現状です。
金塚:私も同じように感じています。最後の質問ですが、酒井さんは今後の障害者就労について、どのような展望を考えておられますか?
酒井:今後も広く、就労支援のニーズは増えてくると思います。障害者手帳を持たない方など幅広い層に対して、ダイバーシティ就労の支援も求められるでしょう。そこに対しても、この約20年間に培ってきた障害者就労支援の経験や方法論が、役に立つのではないかと考えています。また、対象者が増えていくにあたり、支援者の確保も必要です。人材の質と量、両方が課題です。
社会福祉法人 加島友愛会
大阪市淀川区加島1-60-36
06-6101-6601
https://kashima-yuai.or.jp/