わが町の熱い応援団 ~企業編~ 「ゴトーたたみ製作所」

わが町の熱い応援団 ~企業編~ 「ゴトーたたみ製作所」

【JSN】とは10年近いお付き合い。中小企業家同友会でのつながりから、実習生の受け入れを快諾して下さった後藤社長。畳屋さんとしての思い、そして実習生への接し方。担当のスタッフが「クールに見えますが、実は激アツな社長。ぜひ広報誌に登場して頂きたいです」とアプローチ。すべてに一本筋が通っており、寡黙だけど面倒見が良く兄貴肌。愛情に溢れた社長さんでした!

国産のいぐさにこだわり
正直な経営を

国産のいぐさにこだわり正直な経営を

-入り口で看板猫のミルクちゃんが迎えてくれます。

当店の受付担当で、名刺もあるんですよ。7歳の男の子です。ミルクに会いに来て下さるお客様も多くいらっしゃいます。もうすぐ子猫が2匹加わります。

-看板猫が増えますね。

子猫と会わせたらミルクが拗ねるんですよ。「オレの人気がなくなる」と(笑)。

-開業するまでの経緯を教えて下さい。

最初は吹田市山田で’08年に独立開業しました。その後、’17年にこの場所に開店。現在は2拠点で営業しています。その前は高槻の畳屋で9年間、働いていました。

-この業界に入ったきっかけは?

畳屋に入る前は、トラックの運転手をしていました。同級生が畳屋の3代目で、「働かないか?」と誘われたのがきっかけです。10tトラックから、いきなり軽トラックを運転することになりました(笑)。ものづくりが好きというよりも、昔から経営に興味があり、店舗運営をやってみたいという気持ちが強くありました。

-今も職人仕事と経営を両立されています。

独立した時はゼロからのスタートでした。修行先から場所が離れていましたし、得意先を引き継ぐ「のれん分け」という形でもない。個人のお客様を中心に開拓しようと考え、自分の思いを発信することから始めました。小さな店の軒先に自作のチラシを貼ったり、近隣に配ったりしました。リーマンショックの年で景気も悪く、同業者からは「すぐに潰れるだろう」と言われましたが、「絶対に見返してやる」と心の中では思っていました。

-発信された「思い」とは?

一人の畳職人としてではなく、畳業界全体を見据えた「思い」です。この道のプロとして、本当に良い商品をお客様に勧めたい。世間一般では大量生産がもてはやされ、リフォーム業者の下請けをしているだけ、という畳屋さんが多い。お客様からは「畳を変えたいのだけど、どこの相談すればいいかわからない」という声を聞きます。畳屋に来て「畳ってどこで買えるんですか?」と聞かれるんです。

-本当に良い畳を買いたいお客様が、困っておられるのですね・・・

熊本のいぐさ農家を訪れ、色々なお話を伺いました。畳は日本の文化であるにも関わらず、国産のいぐさはどんどん減ってきています。現在は中国からの輸入が6割。その理由が、農家さんを訪ねて初めてわかったんです。畳屋さんと農家さん、そして仲買という三者の関係性ができておらず、それぞれが言い分を主張している状況でした。農家さんに対して「安くしろ」と言うばかりで、対等な関係ではない。僕は元々は畳業界の人間ではありません。だからこそ業界の「構造」がよく見えたんです。

-業界の発展を妨げているような「構造」です。

農家の成り手も少ないため、さらに国産のいぐさが減ってきています。ただ、僕一人で業界を変えていくのは難しい。畳屋の横のつながりを求めて模索した時期もありますが、思いを共有できるような仲間には出会えませんでした。私にできることは、安い材料を仕入れて利益を増やす経営をするのではなく、農家さんとのつながりを大切しに、国産にこだわった正直な経営をおこなうこと。そして、その思いを発信していくことです。

-「畳屋兄ちゃん通信」というチラシを発行されています。

半径1キロ圏内のマンションや戸建てに配布しています。最初は500枚からスタートし、今は1万枚。3ヶ月に一度発行しており、50号を超えました。宣伝というよりも、お客様とのコミュニケーションのツール。近所のおばあちゃんがチラシを手に「いつもありがとう。こういうのって嬉しいのよね」と、店を訪ねて来て下さったこともあります。お客様と文通しているような気持ちになります。

-会う前から距離が縮まっているんですね。

はい。お客様はすでに私のことを知って下さっているので、打ち解けるのは早いです。私は愛想が良くて話が上手なほうではないので、とても助かっています(笑)。チラシをきっかけに、お客様が少しずつ増えてきました。

どのスイッチで
この人は伸びるかな?

どのスイッチでこの人は伸びるかな?

-【JSN】と出会ったきっかけは?

中小企業家同友会のつながりが最初だったと思います。「障害者の実習を受け入れてくれる会社が少ない」と聞き、受け入れを始めたのがきっかけです。その前から鳥飼の支援学校の生徒さんを受け入れています。「畳屋兄ちゃん通信」を見た先生から連絡を頂いたことがきっかけです。

-【JSN】の訓練生が支援学校の生徒さんに教えるという、貴重な機会を設けて下さったこともあります。実習生の受け入れに際して、不安はなかったですか?

「なんかわからんけど、とりあえずやってみよう」という気持ちでした。これまでに【JSN】さんから7~8名、支援学校を合わせたら20名ほどを受け入れています。長い方では5ヶ月ほど実習されています。豊中市からの紹介でも受け入れたことがあります。30代で一度も働いた経験のない方だったのですが、実習後に「就職しました」と報告があり嬉しかったです。カードゲームが得意で、とても頭が良い方だなぁと感じたので「その頭の良さを生かさなければもったいない!」と伝えたところ自信を付け、みるみる変わっていきました。

-実習生と接する際に、心がけていることはありますか?

本人の長所を見極め、「どうやったら伸ばすことができるか」を考えています。通常は二週間もあれば機械の操作を覚えることができますが、一人だけ二ヶ月以上かかった実習生がいました。しかし結果的には、その方が一番上手にできたんです。驚くほどの出来で、その辺の畳職人よりもパーフェクトでした。

-それはびっくりしますね。

基本的に実習生は皆、とても真面目です。「100%の出来じゃないとダメ」と考えており、90%でも「自分はできていない」と言います。「そうじゃないよ」と伝えて、違うところからアプローチして、自信を付けてもらう。例えば話すのが苦手な方にしゃべる練習をさせても伸びません。僕自身も「黙ってろ」と言われたら何時間でも黙っていられる(笑)。だから相手がしゃべらなくても平気なんです。「しゃべらんでいいよ」と伝えた実習生が作業に集中できるようになり、自信が付いた結果、しゃべれるようになったことがあります。吃音の方が話せるようになったこともありました。

-そういった経験は、実習でしか得ることができません。ありがたいです。

実習生に伝えた言葉で、自分がハッとすることがあります。「100%の力でなくてもいい」とか、自分にも当てはまるなぁと(笑)。知恵の輪と同じで、「もう少しでほどけそう」と思って引っ張っても取れないじゃないですか。そんな時ほど形を変えてアプローチをしていかなくてはなりません。どこのスイッチを押したら、この人は伸びるかな?といつも考えています。

畳業界を巻き込んで
障害者が働く場をつくる

畳業界を巻き込んで障害者が働く場をつくる

-【JSN】の支援に対して、何か感じたことや要望はありますか?

【JSN】さんのやり方と、うちのやり方。双方をすり合わせて、本人にとってベストな方法を見つけていく。こういった作業はすごく面白いと感じました。【JSN】さんと同じ支援を僕がやっても意味がない。かと言って、こちらのやり方ばかりを進めてもいけません。本人が不安に感じてることでも「もうできてる。大丈夫や!」と言って次のステージに進めることもありますが(笑)。

-本人にとって飛躍のチャンスになるかもしれません。

「ここまで」と言われたら、それだけの成長しかないでしょ。その壁が取っ払われたら、いつの間にか超えていることがあるんです。【JSN】さんと支援学校では、支援の方法も実習生の年齢も異なります。支援学校の生徒さんたちは「周りに溶け込めないのは、自分が劣っているから」と思っていることが多い。僕は逆だと思うんです。考え方が大人びているから、周りと距離があるだけではないかと。実際、大人も驚くようなコメントをする生徒さんもいるんですよ。「どれだけ考えて、苦労してきたんだろう」と思います。本人に伝えたら、それからどんどん話すようになりました。実習後のお礼の手紙を、他の実習生の2倍くらいたくさん書いてくれて、嬉しかったです。

-後藤社長ご自身の、今後の目標や夢を教えて下さい。

うちの奥さんが看護士で、サービス管理責任者の資格を持っているんです。将来的には、就労継続支援B型事業所を開設したいと考えています。畳業界を巻き込んで、障害者の働く場を作りたい。若い畳職人を育てるよりも、仕事を細分化して障害者が働ける場を作ったほうが、日本の畳文化を守れるのではないか。成長に応じて賃金や職務をステップアップできる仕組みを作り、技術が身に付いた方には指導者として後進を育成する立場を任せるなど、モチベーションが上がるよう考えていきたいです。今年中には形にできたらと、準備しているところです。

-畳職人と障害者雇用、とても相性が良さそうです。

いぐさ農家さんとも相性が良さそうだなぁと考えているところです。また、もう一つの目標として海外進出を考えています。ドイツやフランスなど、職人仕事や文化が重んじられる国で、日本の畳の良さを広めたい。海外で認められたら、逆輸入のような形で日本でも畳文化の良さを広められるのではないか。海外の方の感性から、日本にはない新しい商品が生まれるかもしれません。

ゴトーたたみ製作所

大阪府豊中市東豊中町5-35-7(千里中央店)
06-6850-7200
http://goto-tatami.jp/