事務局長金塚の突撃!現場トーク NPO法人 ワークス未来千葉 センター長 藤尾 健二さん

2026年9月12日

国と県から委託された二つの事業を運営する「ワークス未来千葉」さん。自立支援法が始まる前の2003年12月の設立時より、障害のある方への就労支援と、雇用企業へのサポートを両立。その先駆的な活動をけん引してこられたのが、センター長の藤尾さんです。現在は県下に16ヶ所ある、障害者就業・生活支援センターの連絡協議会の代表も務めておられます。

金塚が理事を務める「全国就業支援ネットワーク」の代表理事でもある藤尾さんは、いわば盟友であり戦友。本音トークは尽きることなく、第二ラウンド(飲み会!)に持ち込まれたようです。

県と国から委託された
二つの事業を運営

金塚:現在の事業内容は?

藤尾:大きく分けて二つあります。一つ目が千葉障害者就業支援キャリアセンターで、これは千葉県、千葉市から委託されている事業です。二つ目は国から委託されている障害者就業・生活支援センター(以下:中ポツ)の事業で、こちらが千葉障害者キャリアセンターです。

金塚:一つ目の千葉障害者就業支援キャリアセンターの活動について、教えて下さい。

藤尾:現在は訓練事業をおこないながら、県内に16名在籍している企業支援員の研修を開催したり、統括する役割を担っています。また、企業担当者向けの二日間の研修を、年に6回。半日のフォローアップ研修を年2回開催しています。

金塚:訓練内容は?

藤尾:軽作業が中心で、週5日。月曜から金曜の9時~16時まで訓練をおこない、就職に送り出しています。ただ、自立支援法が整備されて就労移行支援事業所が増えてきたこともあり、他の福祉サービスに繋がらなかった方が通われるケースが多いです。ここでアセスメントを取ってから進路を考える方もおられます。そのため就労選択支援事業に近い形かな、と思います。

金塚:ここに通う方と、就労移行支援事業所など他の福祉サービスに繋がった方とでは、どのような違いがありますか?

藤尾:一つは年齢層が高いです。それと重度の方が多いこと。集団行動の中で支援がしづらい、例えば自閉傾向の強い方などは、新興の就労移行支援事業所では受け入れてくれないということがあるからです。

金塚:他に特徴的な活動はありますか?

藤尾:年間で60名ほど特別支援学校の生徒を受け入れています。卒業後に就職し、中ポツの登録を考えている生徒さんたちに、4日間ほど体験訓練に来ていただいています。「こういう相談機関がある」ということを知っていただくと同時に、私たちの側でアセスメントを取ります。これは数年前からおこなっています。

金塚:企業向けの支援については、どのようにされていますか?

藤尾:事業の開始当初「特例子会社設置促進事業」を実施していました。特例子会社の設立全般の支援です。その流れもあり、千葉県内のほとんどの特例子会社と関わりがあります。千葉県内には中ポツが16ヶ所ありますが、当時はあかね園とうちの2ヶ所でした。そのため、企業の雇用支援に特化した「障害者就業支援キャリアセンター事業」を千葉県が展開していましたが、企業支援の役割を、県内のさまざまな場所でもできれば・・・ということで、県内の中ポツセンターの増加と共に「法定雇用率未達成企業支援員」という事業を千葉県が始めました。現在は16ヶ所の中ポツに1名ずつ、この支援員が配置されています。その統括的な役割を当法人が担っています。

中立公正の立場で
地域の課題を国に伝える

金塚:藤尾さんはその16ヶ所の中ポツを取りまとめる「千葉県障害者就業・生活支援センター 連絡協議会」の代表も務めておられます。

藤尾:横の繋がりを作って連携し、情報共有や共通する課題の解決を図るための活動をおこなっています。例えば特別支援学校とのワーキングチームでは、特別支援学校の先生向けの研修などをおこなっています。

金塚:これだけ強固な横の繋がりは他の都道府県では見たことがありません。藤尾さんはもう一つ、「全国就業支援ネットワーク」の代表理事もされており、千葉での取り組みを全国に広げるための活動も続けておられます。

藤尾:「全国就業支援ネットワーク」の役割は大きく、正しいことを正しいと発信できる数少ない団体だと思います。最近では国と意見交換をしたり、厚労省の検討会等に参加する機会が多く、特にそう実感しています。利害やしがらみとは関係なく、地域の困りごとや課題を率直に伝えています。

金塚:中ポツもそうですが、中立公正という立場の希少さと重要性を痛感しています。

藤尾:規制緩和で営利法人が就労支援に入ってきたことで、メリットとデメリットがあると思います。デメリットとしては、企業の大前提は「利益を上げる集団」であるため、障害者の支援が必ずしも最優先ではなくなるということです。「これって本人のためなのかな?」というような取り扱いも増えています。

金塚:その背景にある要因とは?

藤尾:こういった問題に気付いている地方行政が少ない。そもそも興味が無く、チェックする力もない。では地域で、誰がそこをしっかり考えるのか。それが自立支援協議会であり、中ポツだと思います。ですから中ポツの中立公正というのは、とても重要なことになります。

豊かになるための
支援になっているか

金塚:藤尾さんが今おっしゃったようなことを実現していくために、我々支援者にはどのような資質が問われますか?

藤尾:我々は物を扱っている仕事ではありません。人に対する、対人支援の仕事です。ケース会議の場などで支援者の方から「この方は、一般就労は難しいから就労継続支援B型事業所(以下:B型/A型)を勧めよう」という発言を聞くことがあります。しかし、それは本人の将来を見据えた発言なのか? 就労支援をする我々は、今の時点だけを見るのではなく、「どうしたら可能性を広げられるのか」をとことん考えていかなくてはなりません。福祉の仕事をする方は「無理しなくていいよ」と言いがちなんですが、その先にどんな生活が待っているのかを考えた時に、無責任さを感じることがあります。日本のセーフティーネットは「生活保護」しかない現状の中で、果たして人としての生活が担保されているのか。

金塚:可能性を広げる視点。

藤尾:もう一つ。「障害者だから仕方がない」という視点で、あきらめている場面が増えているように思います。それに対して、我々支援者が慣れてしまっているのではないか。豊かになるための支援になっているか。私たち支援者が「我が事」として考える想像力を、しっかり持つことが重要だと思います。

金塚:藤尾さんご自身は、どのようにしてそういう考えを身に付けていきましたか?

藤尾:私は元々ホテルマンだったのですが、特例子会社に勤めたことがきっかけで、この世界に入りました。仕事内容は簡易食品容器の製造だったのですが、支援をしているという感覚はありませんでした。障害に対する知識は一切学んでいなかったので、職業生活相談員の研修を受けた時は衝撃的でした。2000年頃だったと思うのですが、「こんな世界だったのか」と驚きました。当時も障害者の社員から相談を受けることがありましたが、今の特例子会社のように時間を取って面談をする・・・というような形ではありませんでした。

金塚:「働いている障害者」との関わりからスタートしておられるのですね。

藤尾:「普通に接する」という視点は、その時に培われたと思います。そこでは重度の方がとても多く働いていましたが、一緒に飲みに行ったり、旅行に行ったりしていました。そのため「障害があるから働けない」と考えたことはなく、効率化のための工夫を沢山してきました。

びっくりするほど
お世話するんだな

金塚:そこを辞めて、今の仕事に就いたきっかけは?

藤尾:職業生活相談員の研修を受けたことは大きかったと思います。「こういう仕事があるんだな」と知るきっかけにもなりましたし、会社の中で当事者を支援する限界を感じてもいました。ただ、今の仕事に就いて真っ先に感じたのは「福祉って気持ち悪いな」(率直な感想だったので、どうかご容赦を!)ということです。色んな機関と連携を取っていく中で、「びっくりするほどお世話するんだな」という印象は、ものすごく強く残っています。

金塚:支援をする中で「失敗したな」ということはありますか?

藤尾:山ほどありますよ。中でも「真剣にやれば絶対に伝わる」という信念は、180度くつがえされました。「相手のことを想って真剣に怒れば当事者は変わる!」。でも、それは怖いから行動が変わっていただけだったんです。つまり、何を求めているかはちゃんと伝わってなかった。オフの時に飲みに行ったり旅行に行ったりすることで、「関係性を築いているから怒っても大丈夫だ」とも思っていました。だけど後で気付いたのは、怒る必要はなかったということです。

金塚:就労支援の現場で今、一番大きな課題は何でしょうか?

藤尾:就労移行支援事業所が様変わりしてきた要因の一つに、企業が「どういう人を求めているか」を誤って発信したことがあると思います。雇用率を追いかけると、「数を達成する」ことが最優先になります。結果として「働ける人」よりも「トラブルを起こさない人」「集団の中で上手にふるまえる人」を優先するようになる。そして就労移行支援事業所は、そのニーズに合った人を送り出すようになる。報道等で耳にする情報から受ける印象として、今の障害福祉サービスで「働く力」が本当につくのかな?と疑問が出てきます。しかし企業が求める人材が変わっていかないと、障害福祉サービスも変わりません。

金塚:たしかに。

藤尾:現在、国では「雇用の質」について議論されています。そのうちの一つに「戦力化」があります。企業が本気で戦力として働いてもらうことを求め出したら、そこで初めて、送り出す側の「支援の質」が問われるという流れに変わるのではないでしょうか。一体で動いていかないと、どこか1ヶ所だけに手を入れても変わっていきません。

金塚:就労支援と他の支援の大きな違いは、就労支援は企業が関わってくることです。当事者と支援者の二者関係ではない。社会も関わってくる中で、一体で、雇用の質について考えていく必要があります。

藤尾:あとは地域格差の課題ですね。

「まずは働くものなのだ」と
伝えないと立ち行かなくなる

金塚:似た質問になりますが、就労支援において今、何が足りていないと思いますか?

藤尾:「将来、本人たちがどう生活していくのかの展望」が足りていないと思います。それに基づいたサービスになっていかなくてはなりません。就労移行支援事業所は地域偏在が解消されて、しっかりと運営されていけば、そんなに課題はないと思います。就労定着支援についても、課題がないとは言えませんが一定の成果はあると思っています。しかし、A型とB型事業所については、対象者像や役割がものすごく不明瞭です。B型に関しては、就労者を出すという側面もあれば、居場所という側面もある。対象者とサービス内容について、もう少し揉んだほうがよいと思います。

金塚:なるほど。

藤尾:また、支援者は利用者やご家族に対して、お金のことや生活のこと、つまり「今のままだと立ち行かなくなるかも」という可能性について、早い段階から伝えたほうがいいと思います。「将来的に生活保護になってしまうかもしれない」という状況を、親御さんは誰も想像していない。日本は昔のように裕福な国ではありません。だんだんと核家族化が進み、かつてのように三世代で成り立っていた家族構成ではなくなっています。また、親御さんが貯めたお金と年金で余生を過ごすという将来設計も成り立たなくなっていると感じます。年金と最低賃金で一生食べていける、という時代ではありません。所得補償の制度もなければ、「働くことの重要性」を伝えるでも「働こうよ」と投げかけるでもない。この状況はとてもまずいと思います。「まずは働くものなのだ」というところからスタートしたら、もう少し世の中は変わると思います。

金塚:最後に、これから就労支援の分野で働きたいという人に向けて、メッセージをお願いします。

藤尾:最初からこの世界に入らないほうがいいかもしれません。そろばんをはじく社会を経験し、その大変さをわかった上でこの仕事を始めたほうが、僕はいいと思うんです。対人支援の仕事は、経験値が生きる仕事です。自分が経験した範囲のことは、当事者から相談を受けた時も、経験をその後の支援にも活かしやすい。しかしそれが「想像」となると、一気に質が下がると僕は思っています。また、そこから経験値を積んだり、カバ―する想像力を身に付けるには時間がかかると思います。

金塚:そろばんをはじく。

藤尾:今、障害者の支援において、お金から離れて運営しているところは数多くありません。就労移行支援事業所でも成果が上がらなければ食べていけません。ここでジレンマを感じ、悩んでいる職員の方はたくさんいます。「当事者のために全力で支援したいけど(お金の問題で)できない」という場面で困惑する。だからこそ一度、成果主義の職場で納期や生産性に追われる経験を積んでから、就労支援をやったほうがいいのかな、と。この仕事の「魅力」や「使命」を、より実感できると思います。

NPO法人 ワークス未来千葉
千葉障害者就業支援キャリアセンター
千葉障害者キャリアセンター(障害者就業・生活支援センター)
千葉市美浜区新港43
043-204-2385