病と疾患の違い
ドラマ「19番目のカルテ」の中で、主人公のドクターが「病と疾患の違いがわかっていない」と口にする場面がある。最初は部下のドクターもその意味をすぐに理解できない。しかし、患者の話をじっくりと聴く中で、その言葉が少しずつ腑に落ちていく。
ここで示される「疾患」と「病」の違い。疾患とは、医学的に診断される病気そのものを指している。一方で「病」とは、疾患がもたらす生活のしづらさや苦しみ、さらには社会の中で生きるうえで直面する困難を意味している。つまり、同じ疾患を抱えていても、生活環境や人間関係によって「病」の形は大きく変わってくる。
これは私たちの就労支援にもそのまま当てはまる。統合失調症を発症した人が、精神疾患そのものだけでなく、社会の中で受ける差別や偏見によって「働きたくても働けない」という現実に直面することがある。結果として経済的に困窮し、生活が不安定になり、時には基本的人権すら守られない状況に追い込まれてしまう。
私たちが担う就労支援は、単に「仕事を斡旋するサービス」ではない。働くことは人の生活の一部であり、同時に人生に深く関わる営みである。そのため、疾患だけを見て支援していても、本当の意味での解決にはつながらない。その人が抱える生活全体の課題や想いを理解し、「まるっと」その人の人生を支える視点を持つことが欠かせない。
就労支援とは、疾患に縛られた「病」を少しでも軽くし、その人が社会の一員として自分らしく生きられるように伴走する営みなのだといえる。